ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-062
*垣本大(三重大・生物資源),松尾奈緒子, 隠岐健児, 小鹿耕平(三重大・生物資源),小山晋平(京大・農), 大手信人(東大・農), 張国盛,王林和(内蒙古農業大), 吉川賢(岡大・農)
葉内の水の酸素安定同位体比(d18O)は蒸散に伴って変化するため,瞬間的な蒸散特性の指標となる.さらに,日々行われているセルロース合成の際に葉内の水とセルロースのカルボニル基との間で酸素原子の交換が起こるため,葉組織中のセルロースのd18Oは長期平均的な蒸散特性を反映することが既往の研究で示されているが,野外での検証例は極めて少ない.本研究では,中国内蒙古自治区毛烏素沙地に生育する数樹種の植物を用いて,蒸散が葉の中のセルロースのd18Oに与える影響の評価を行なった.2007年,2008年の8〜9月に,調査地の環境条件,蒸散量,気孔コンダクタンスの日変化を測定した.また同時に各樹種の葉,茎を採取し,葉組織中のセルロース,葉内水,茎内水のd18Oを測定した.対象植物の葉組織中のセルロースのd18Oには樹種間差がみられた.これらの値からBarbour & Farquhar (2000) のモデル式を使い,セルロース合成時の酸素原子の交換率を一定と仮定して葉内水のd18Oを推定した.その結果,一樹種を除いて葉内水のd18Oの推定値は観測値の日変化の変動範囲内の値だった.このことから葉組織中のセルロースのd18Oは,蒸散量の影響を受け日変化する葉内水のd18Oを長期的に反映していることが確かめられた.よって,葉組織中のセルロースのd18Oの樹種間差は各樹種の長期平均的な蒸散特性の違いを反映していることが示唆された.