ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-080
*三田村理子,山村靖夫(茨城大・理),中野隆志(山梨県・環境科学研)
植生動態への林冠ギャップ形成の影響を評価するためには、ギャップ規模に応じた植物種ごとの生育反応を明らかにすることが不可欠である。そこで本研究は、耐陰性樹種が示す光環境への光合成特性の可塑性を解析することで、ギャップ形成に対する応答特性の基礎的理解を得ることを目的とした。富士山森林限界付近の森林には、1〜数本の倒木によって形成された小・中規模のギャップや、表層雪崩による一斉倒木によって形成された大規模ギャップが存在する。シラビソは耐陰性を持つ亜高山帯性針葉樹種であり、その稚樹は富士山亜高山帯林の林床に広く分布している。シラビソ稚樹の光環境への可塑性の範囲を明らかにするため、光条件が異なる林床と林冠ギャップ下の5つの生育場所(林冠開空率シラビソ林内4%;カラマツ林内11%;小・中・大規模ギャップ内5、7、64%)間において、光合成能力と光化学系の光阻害の程度を比較した。大規模ギャップの稚樹の最大光合成速度は、他の生育場所の稚樹よりも低かった。また、大規模ギャップの稚樹において、光化学系でのクロロフィル蛍光の最大量子収率の低下がみられた。すなわち、大規模ギャップがもたらす強光環境は、シラビソ稚樹の生理的可塑性の範囲を超える環境であり、光ストレスによって光合成系の生理的機能が阻害され、光合成の低下が起こることが明らかになった。大規模ギャップにおける稚樹の伸長成長は中規模ギャップの稚樹よりも小さいことから、シラビソ稚樹にとって極端に明るい環境は、生育に適さないことが示唆される。