ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-087
*西谷里美(日本医大・生物),中村敏枝(首都大・生命科学),可知直毅(首都大・生命科学)
ヒガンバナは冬緑性の多年生草本で,関東地方では6月から9月中旬の約3.5ヶ月(以下,非展葉期と記す)を地下器官(鱗茎と根)のみですごす。発表者らは,葉の存在しない季節における根の役割に注目して研究を進めている。これまでに,新根の出現が主に非展葉期におこることや,根の呼吸速度が7月にピークをもつことなどを明らかにした(第53回,54回大会)。今大会では,根が非展葉期に窒素を吸収することを,室内実験で確認したので報告する。
実験には,5月下旬に奈良県で採取された鱗茎(根は切除されていた)を用いた。湿重量が4~5 gの72個体を選び,このうち18個体は,実験開始時の状態を把握するためのサンプルとして直ちに乾燥させた。残りの54個体は1個体ずつ,バーミキュライトを入れたビニルポットに植え,7月3日から人工気象室内で栽培した。人工気象室の温度は,野外で新根が観察される春から夏の地温(地下5cm)を模し,昼16度 / 夜10度から昼33度 / 夜26度まで徐々に上げて行った。半数の個体には,8月15日に緩効性の固形肥料を2 g(窒素分6%)与えた。9月30日にすべての個体を堀上げ,鱗茎と根に分けて乾燥させた。実験開始時のサンプルとともに,乾燥重量と窒素濃度の測定を行った。
3ヶ月間の栽培期間中に,個体重はわずかに減少した。窒素濃度は,鱗茎,根ともに,施肥を受けた個体で有意に高く,実験開始時のサンプルとコントロールとでは有意差は無かった。個体あたりの窒素量も同様の結果であり,施肥を行った1.5ヶ月の間に植物が窒素を吸収したことが示された。葉の存在しない季節は休眠期間とみなされることが多いが,ヒガンバナの根は活性を維持していることが明らかになった。