ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-096
河原崎里子12,相川真一1,石田厚1,可知直毅2,田内裕之1(1森林総研,2首都大)
常緑樹実生は,林冠ギャップ形成などにより,被陰から強光への急激な光環境変動を経験する可能性を一年を通して有する。冬と夏の急激な光環境の変動に対する常緑樹実生の反応を調べた。常緑樹7種(アカガシ,イスノキ,ウバメガシ,クスノキなど)の当年実生を被陰下(相対照度RLI 7,14,50%)でポット栽培し,冬と夏に裸地へ移動させた。夏(8月),裸地へ移動後数日のうちに,光化学系IIにおける最大量子収率(Fv/Fm)は低下し,特にRLI 7%由来の個体で低下が顕著で0.5を下回った。RLI 14,50%由来の個体では,いずれの種も0.5を下回らなかった。その後,ほとんどの処理区の個体でFv/Fmが約2週間で回復に向かった。一方,冬(1月)に裸地に移動させた個体では,Fv/Fmは低下し続け,すべての処理区の個体で0.5を下回った。クスノキやツブラジイ,アカガシ,アラカシなど,特にRLI 7%由来の個体で落葉が見られた。裸地に出して45日後,最大光合成速度はいずれも低下し,呼吸に転じている個体もあった(RLI 7,14%由来のアカガシ,アラカシなど)。90日後,春になり気温が高くなると,残った葉のFv/Fmは0.5前後に回復し,130日後には残った葉の最大光合成速度は裸地に出す直前の値付近まで回復した。個葉での光阻害耐性を比較するために,冬と夏の時期の葉を,恒温条件下(22℃)で強光照射(1,700 μmol m-2 s-1 1時間)し,Fv/Fmの測定を行った。その結果,夏の葉の方が回復の程度が低く,冬の葉は強光照射前とほぼ同程度に回復した。冬の葉は野外環境では強光と低温のストレスから光阻害を受け易いが,光阻害耐性の生理機能が高いことがわかった。