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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-107

斜面に咲く花は嫌われる?:傾斜がマルハナバチの訪花頻度に与える影響

牧野崇司(筑波大・生命環境)


動物媒の植物にとって、送粉者の訪花頻度は花粉の輸送量を決める重要な要因である。そのため、送粉者の訪花頻度に影響する要因の解明は、植物の繁殖生態を理解する上で欠かすことのできないテーマである。これまでに、花サイズや報酬量、気温といった様々な要因が訪花頻度に影響することが示されている。

植物が生育する地面の「傾斜」もまた、訪花頻度に影響するかもしれない。送粉者は植物間を移動しながら花を次々と訪れる。斜面での移動は平面とは異なり上下の移動をともなう。鳥類では、上下の飛行に時間を要する例が少数だが報告されている。送粉者でも同様のことが起こるとすると、送粉者の採餌速度(時間あたり報酬獲得量)は斜面で下がることになる。そうならば、送粉者は採餌速度の低下を避けるため、斜面の花を嫌うかもしれない。

これらの予測を検証するため、自動で蜜が回復する仕組みを内蔵する人工花と、クロマルハナバチを用いた室内実験を行った。

実験1では、縦横1.8mの板に人工花36個を格子状に並べ、ハチを巣から1個体ずつ放した。そして板を徐々に傾け、水平から垂直まで、5段階の傾斜角 (0, 22.5, 45, 67.5, 90°) におけるハチの行動をビデオカメラで記録した。そしてビデオから訪花のタイミングを割り出し、蜜獲得量を計算した。その結果、ハチの採餌速度は斜面で低下することがわかった。この低下は、上下の移動に時間がかかることが原因だった。

実験2では、人工花を並べた板を2枚用意し、片方を水平に、もう片方を45°に(or 67.5°に)傾けて設置した。そこにハチを1個体ずつ放し、平面と斜面、それぞれの花への訪問数を記録した。その結果、ハチは平面に並んだ花をより多く訪れることがわかった。

以上の結果は、野外においても、斜面に咲く花への訪問頻度が低くなる可能性、さらには斜面の花ほど花粉制限をうけやすい可能性を強く示唆するものである。


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