ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-109
*岡本朋子,後藤龍太郎,加藤真 (京大院 人環)
カンコノキ属植物は、幼虫が種子を専食するホソガ科の1種の蛾に送粉され、両者は絶対送粉共生の関係にある。ホソガの雌成虫は、夜間に花の匂いを用いて1種のカンコノキ属植物を訪れ、能動的な送粉および雌花への産卵を行うことが知られている。ホソガは交尾後、カンコノキの雄花を訪れ、口吻を使い花粉を集めた後雌花へ運び、授粉した花に産卵する。また、孵化したホソガの幼虫は、発達途中の実の一部を食べて生長する。このようなホソガによる複雑な送粉・産卵行動は、植物と送粉昆虫の互いの繁殖に大きく関わり、絶対送粉共生系の最も際立った特徴といえる。しかしながら、これらの行動が絶対送粉共生系で維持されるメカニズムは未だ解明されていない。そこで本研究では雌のホソガによる複雑な送粉・産卵行動が保たれたまま、カンコノキ属植物約300種と非常に多様化した背景について議論を行った。
夜間に活動するホソガの送粉・産卵の各段階では、植物の花の匂いがシグナルとして重要な働きをすると考えられるため、カンコノキ属植物5種を対象にヘッドスペース法で雌花と雄花の匂いを採集し、ガスクロマトグラフ質量分析計で分析を行った。すると種内の雄花と雌花の花の匂いは主要成分が全く異なることが明らかとなった。この結果はホソガが雌雄花間を花の匂いで見分けていることを示唆している。また、これらの結果から、雌花と雄花間の匂いの類似性をCNESS-NMDS法によって調べたところ、種内の雌雄間の差よりも種間の雌花間、雄花間でそれぞれ匂いが似る傾向が見られた。つまり、絶対送粉共生系成立の初期に雌雄の花の匂いが分化し、その違いが保存されたまま多様化したと考えられた。また、カンコノキ属植物の周辺属植物の雌雄花の匂いの違いと比較を行い、これら雌雄花の匂いの分化が絶対送粉共生系に特有の現象であることを示した。