ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-124
広島大・院・国際協力
近年の人為的撹乱により、熱帯ではEmpty forestが増加し、動物散布型植物の散布量や実生の多様性の減少が報告されている。日本の主要散布者のニホンザル(以下サル)も人為的撹乱で個体群縮小や絶滅が生じている。著者は、サル調査地の鹿児島県屋久島の隣の種子島でサルが絶滅していることに注目した。絶滅により失われうる散布特性の解明と絶滅の影響の検出を目的とし、主要餌資源のヤマモモを対象に、野外観察と遺伝解析の両方から評価した。
まず、野外観察ではサルが完熟果実を選択的に採食し、完熟果実量の変化に伴い行動を変化することが示された。サルが成熟種子を選択的に散布する効果的な散布者であり、完熟果実量の変化が散布パターンに影響することを示唆する。また、糞内の散布種子を遺伝解析したところ、いずれの糞にも複数の結実木の種子が混在し、母樹からの平均散布距離は270.1m、同じ糞の種子が由来する母樹同士の平均距離は161.5mであった(Terakawa et al. 2008)。サルによる散布は、散布種子の兄弟間競争回避や遺伝子流動促進、遺伝的多様性の高い集団の形成に重要な役割を果たすと考えられる。
次に、種子島と屋久島で結実木を観察したところ、散布者はサルとヒヨドリに限られ、訪問毎の採食量はサルがヒヨドリの20倍以上、種子島ではヒヨドリの訪問数は増加せずに散布量が激減することが示された。サルによる散布を鳥類が代替することは難しいことを示唆する(寺川ら 2008)。最後に、各島の集団の成木を遺伝解析したところ、集団は遺伝的に分化していなかった。しかし、屋久島でサルが多様な植物の種子を散布し、両島が共通の構成樹種を持つことから、散布量が激減した植物はヤマモモ以外に存在する可能性は高いと考えられる。