ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-126
*高橋明子(京大院・農),柴田銃江(森林総研・東北),島田卓哉(森林総研・東北)
タンニンなどの被食防御形質は種子の生存過程に大きな影響を持つことが知られているが,このことは主に種間比較に基づいて明らかにされてきた。一方、近年、種子の化学成分に非常に大きな種内変異が存在することが報告されており、防御形質の種内変異が個々の種子の生存過程に影響する可能性が指摘されている。本研究の目的は、非破壊分析法による成分既知種子を用いた野外実験によって、個々のコナラ種子の形質がその生存過程に与える影響を解明することである。
コナラ34個体から合計8988個の種子を採取し、近赤外分光法により各種子のタンニン含有率を推定した。その後それぞれの母樹の樹冠下に戻し、翌春までの生存状況と死亡要因を記録した。種子総数のうち、4884個(54.3%)が運搬され、そのうち8個(0.089%)が発芽し、168個(1.9%)が死亡した。また運搬されなかった種子は4104個(45.7%)で、うち758個(8.4%)が発芽し、3346個(37.2%)が死亡した。全死亡種子の31.4%が野ネズミの捕食による死亡であった。種子の運搬・生残のそれぞれを目的変数とし、種子形質(タンニン含有率、サイズ〔生重〕)を説明変数、母樹の違いを変量効果としたロジスティック回帰分析をしたところ、散布されやすいのはタンニン含有率が低く大きな種子だが、生存に関してはタンニン含有率が高く小さな種子が有利であることが判明した。このように種子の形質を介して散布されやすさと生き残りやすさとの間にジレンマがあることがわかった。以上の結果から、種子生存過程の研究においては種子形質の種内変異を考慮することが重要だと考える。