ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-136
*市原実(岐阜大院・連農,静岡大・農),丸山啓輔, 足立行徳,山下雅幸,澤田均(静岡大・農),石田義樹,稲垣栄洋(静岡農技研),浅井元朗(中央農研)
農地の生物多様性は,様々な生態系サービスをもたらすことで,持続的な農業生産をサポートしている。その一つに,種子食動物による雑草種子の捕食がある。種子捕食は雑草種子の重要な減少要因であり,雑草個体群の効果的な抑制手段となりうる。雑草管理手段として種子捕食を活用してゆくためには,その定量化が不可欠である。しかし種子捕食の程度は,農地のランドスケープ構造によって変動する可能性がある。なぜなら,農業ランドスケープにおける畦畔や休耕地,草地,林地などの自然地・半自然地のコンポーネントが種子捕食者の生息地となり,圃場内部への供給源として重要な役割を持つためである。このため,種子捕食の定量化において,ランドスケープ構造との関係を理解しておくことが必要である。本研究では,対照的なランドスケープの農地において,そこへ侵入した外来イネ科雑草ネズミムギ(Lolium multiflorum)の種子捕食率および種子捕食者を比較した。
静岡県内における,自然地・半自然地の割合の低い農地(大規模コムギ‐ダイズ連作圃場の内部と畦畔)およびその割合の高い農地(伝統的な棚田の畦畔)にて調査を行った。ネズミムギ種子散布後の8月から出芽開始期である10月までの夏期3ヶ月間の累積捕食率は,コムギ‐ダイズ圃場の内部では46 % (2週間あたり平均捕食率は9 %),その畦畔では82 % (23 %),棚田畦畔では99 % (47 %)であった。コムギ‐ダイズ圃場では昆虫類(コオロギ類,ゴミムシ類)および哺乳類・鳥類が,棚田畦畔では昆虫類が主な種子捕食者と推定された。本研究より,ランドスケープ構造の複雑な農地では,単純な農地よりも種子捕食率が高い傾向にあることが示された。