ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-145
*布野隆之(新潟大学大学院・自然科学),関島 恒夫(新潟大学大学院・自然科学),村上 拓彦(新潟大学・農学部),阿部 學(日本猛禽類研究機構)
イヌワシの生息環境は、主に、森林限界を越えた山岳地帯などの樹木の少ない環境であるが、日本に生息する亜種ニホンイヌワシは、例外的にブナに代表される落葉広葉樹林帯に分布している。樹木の密集した落葉広葉樹林は、樹冠部の視界に大きく影響するため、上空から地上の餌動物を探索するニホンイヌワシの餌利用を妨げると予想され、それは本亜種の繁殖成績にも影響する可能性が高い。そこで本研究は、落葉広葉樹林におけるニホンイヌワシの繁殖活動を保全する対策を提案するために、本亜種が利用可能な林冠ギャップや餌動物の生息分布を考慮し、本亜種の採餌行動にとって重要な環境をイヌワシ行動圏内において抽出することを試みた。
調査対象としたつがいは新潟県に生息する1つがいであり、その行動圏は樹齢120年以上のブナを主体とする落葉広葉樹林帯である。これまでの調査により、つがいの利用可能な採餌空間は主にブナ林内のギャップであること、さらに、ノウサギとヘビ類を主要な餌動物としていることが明らかとなった。加えて、これらの採餌空間特性や餌の利用様式に関する情報を基にする、採餌空間や餌動物の分布を予測するためのモデルを構築した。本研究では、構築されたモデルを用いて、調査対象つがいの行動圏内において、採餌空間と餌動物の分布パターンを予測し、それらの重複エリアの抽出を試みた。抽出された重複エリアは、餌動物とその餌動物の利用を可能とする採餌空間のセットが整った環境であるため、そのエリアの積極的なゾーニングや施行による創出は、餌の利用が困難と推察される落葉広葉樹林帯に生息するニホンイヌワシを保全する上で有効な手段となろう。