ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-156
*山中裕樹,神松幸弘,源利文,本庄三恵,内井喜美子,鈴木新,川端善一郎(地球研)
魚類は水温変化に対して好適な水温の場所へと移動したり、新たな水温環境に生理代謝を慣れさせる順化を行う。これらには生理的コストが必要で水温は魚類の生理に最も影響を与える環境要因の一つであると言える。本研究では湖沿岸部の物理構造の人為改変が水温分布に影響を与え得るかについて明らかにし魚類の生理状態への波及効果について議論した。
琵琶湖南湖に位置する、擁壁で護岸され岸際から急に水深が深くなっている岸と、沖に向かってなだらかに水深が増す浅い岸とを調査地点に設定し、岸際から沖へ向かって100m程の範囲に水温ロガーを各9箇所に設置して水温の時空間分布を2007年の夏から秋にかけて20分間隔で調査した。
全体での季節変化の傾向として、日平均水温は夏の間は比較的安定していたものの、9月の終わり頃から急な低下傾向を示した。この低下時期に着目すると、2つの岸それぞれで観測された各時点ごとの水温幅には差があり、なだらかな岸の方がより広い幅の水温環境を形成していた。また、一定時間以上安定的に同じ温度の水塊が存在するかについて解析したところ、なだらかな岸の方がより幅広い水温を長い時間安定して保持する傾向が明らかになった。
これらの結果から、なだらかな岸は空間的により不均一な水温環境を形成することによって温度選好性の異なるより多くの魚種に好適な温度を提供できる可能性が高いことが示唆された。また、時間的に安定な水温環境を持つことから、魚類に対してより緩やかな水温順化の機会を与えると考えられる。遠浅の岸辺は埋め立てや道路建設といった人為的改変の影響を特に受けやすい。なだらかな自然の岸辺の割合が湖内で低下することは魚の水温選択行動の選択肢を減らし、また、経時的水温変化に対する順化過程を急激なものにすることで生理的負担を増加させる可能性があると考えられた。