ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-159
*太田陽子(NPO法人 緑と水の連絡会議)・中越信和(広島大・院・国際協力)
瀬戸内海地域において植生を中心とした景観の変遷を階層的に分析し,同じスケールで要因の関係性を把握するとともに,異なるスケールで要因の比較をおこなった.瀬戸内海地域は,風景をとらえる視点の近代における変化や,自然公園行政の影響を直接受け,その変化そのものを体現してきた.景観の変化は,第1次産業を中心とした産業特性や社会状況の変化との関連性がすべてのスケールにおいて最も強く,大規模で破壊的・不可逆的な変化も起こっていた.それと並行して,景観の変化は,地質や地形などの自然的立地条件とも密接に関連することが全スケールで確認され,むしろ緩やかで長期的な攪乱体制である農業に関わる要因が重要であることがわかった.
異なるスケールでの要因を比較すると,特に社会環境については,上位のスケールでの変化は下位のスケールでの変化の背景となり,その変化を意味づけるものとして働くという景観生態学的知見を追認していた.また,あるスケールで関連の見られた変数が,違ったスケールでは関連性をもたないという結果がみられ,これも景観生態学での重要な課題に当てはまる現象であった.
瀬戸内海島嶼域の景観変化に関しては,地区スケールでの分析が地域特性の把握には最適であったが,社会的・文化的,あるいは経済的なまとまりといった観点や景観分析の基礎となるデータの精度,地域計画の策定・運用の可能性の面からも,自治体スケールでの分析が最も有効であると判断された.そこで,このスケールで景観変化が地域生態系に与える影響の分析を行った結果,耕作放棄地の増加や山林の荒廃に伴う伝統的景観の喪失や鳥獣害の被害などについて,そのリスク評価の方法の一案を提示できた.