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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-430

都市化による生育地分断化がタチツボスミレ個体群に与える遺伝的影響

*畑中佑紀(京都大・院・農),橋本啓史(名城大・農),井鷺裕司(京都大・院・農)


分断化した地域に存在する植物個体群は一般的に遺伝的多様性を欠き、近親交配による近交弱勢の影響を受け、環境変化に対する適応力の低下が懸念される。

本研究では森林の分断化が植物の遺伝的性質に及ぼす影響について、開放花と閉鎖花によって繁殖するタチツボスミレを対象に遺伝解析を行った。京都市街地の7個体群、京都市郊外の山地の3個体群からそれぞれ18‐20個体を採集し、マイクロサテライト7座を用いて遺伝解析を行った。その結果、全ての個体群内でハーディーワインベルグ平衡からの有意なずれが認められ、近親交配している事が示された。また全ての個体群間で有意な遺伝的分化が認められた。個体群内の近親交配の程度を示すFIS値と遺伝的多様性を示すアレリリックリッチネスについては市街地と山地で有意な差が認められなかったが、ヘテロ接合度の観察値は山地で有意に大きかった。アレリックリッチネスで評価すれば、市街地の個体群には山地と同程度の遺伝的多様性が維持されていたが、ヘテロ接合度の観察値に有意な差が認められたことから、山地でより頻繁に他家受粉が行われていることが示唆された。一方、市街地ではポリネーターの減少、あるいは光環境の悪化による開放花の減少等により、自家受粉がより頻繁に行われていると考えられる。

これらの結果からタチツボスミレは多様な環境条件に対し、異なった繁殖様式によって確実に子孫を残し、個体群レベルでは遺伝的多様性を維持していると考えられる。しかしながら市街地の7個体群のうち3個体群では、解析した7遺伝子座全てにおいて対立遺伝子が1つに固定されており、遺伝的多様性が非常に低くなっていた。これは長期的な分断化による遺伝的多様性の低下、あるいは生育適地に偶然定着した少数個体が自家受粉を繰り返し、個体群を形成した結果と考えられる。


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