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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-431

近親交配は稚樹個体群のデモグラフィーに影響を与えるか?アカエゾマツ孤立個体群の全個体遺伝子型解析

*富田基史,陶山佳久(東北大・院・農),杉田久志(森林総研東北)


繁殖個体数が極端に限られた樹木の孤立個体群では,一般的に自殖・近親交配が増加し,遺伝的多様性の低下や近交弱勢による遺伝的劣化が進行することが懸念される.また,種子・稚樹段階における死亡率の増加や,稚樹の成長量の低下が見られる可能性も考えられる.その結果として孤立個体群では,自殖・近親交配による負の影響が遺伝的な健全性や多様性だけでなく,個体群のデモグラフィーにも現れると考えられる.しかしながら,樹木の自然個体群におけるこれらの実態についてはよく分かっていない.

本研究の調査地がある岩手県・早池峰山には,本州で唯一アカエゾマツ(Picea glehnii Masters)が生育する.この個体群は地理的に他の分布地から隔離され,繁殖個体数が60個体程度であることから,繁殖・更新プロセスにおける自殖・近親交配の影響が無視できないほど大きいと予想される.演者らのこれまでの調査によって,この個体群では種子成熟と発芽以降の稚樹の生存において,強い近交弱勢が現れることが分かっている.本研究では,調査対象を個体群内の全稚樹個体に拡げ,稚樹の成長・生存に対する近交弱勢の影響を検討することを目的とした.

まず調査個体群の全体像を明らかにするために,アカエゾマツの成木が分布する範囲とその周辺(約2ha)をくまなく踏査し,この範囲に分布するほぼ全個体約3,000個体の稚樹の位置とサイズ(地際・胸高直径)を測定した.さらに全稚樹個体と成木個体から葉を採取し,マイクロサテライトマーカ8遺伝子座の遺伝子型を解析した.これらのデータをもとに繁殖・更新プロセスをモデル化し,特に近交弱勢が稚樹の成長・生存にどれだけ影響を与えるかを検討した.


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