ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-439
*水谷紘菜, 可知直毅, 鈴木準一郎(首都大・理工)
植物は限られた資源をめぐって近隣個体間で競争する。競争下の植物では、資源減少を介した根の間接的な相互作用が知られていたが、近年、競争相手となる個体の根の直接的な相互作用も個体成長や物質分配に影響することが報告された。この相互作用は、競争相手となる個体が自らと遺伝的に同一か否かを根で認識(自己・非自己認識)することによって制御され、物質分配に影響することが数種の植物において示唆された。しかし、自己・非自己認識に関する知見はまだ少なく、物質分泌等を介して地上部も関与する可能性が指摘されている。そこで本研究では、植物の自己・非自己認識は、個体全体で制御されるという仮説を、ナスを用いた栽培実験により検討した。
1ヶ月間培養ポットで栽培した苗を、3パターンの接木(鉢内の2個体の地上部を互いに入れ換える接木、鉢内の2個体をそれぞれの個体内でつなぎ直す接木、鉢外の個体の地上部を移植する接木)をして2個体ずつ鉢に移植した。1ヶ月間の栽培後に、個体ごとの乾燥重量を測定し、処理効果を解析した。
2個体を合わせた鉢全体の総重量、物質分配を比較すると、処理間に有意な差は見られなかった。しかし、鉢内の2個体間の重量差を比較すると、2個体の地上部を互いに入れ換えた処理では、他の2処理よりも差が小さく、特に地上部が対称的に成長する傾向が見られた。
この結果は仮説と矛盾しない。地上部を互いに入れ換え、遺伝的に同一な部位を含むことで、自己・非自己認識機構の変化が生じ、個体間競争に影響した可能性を示唆する。さらに、自己・非自己認識を制御する物質の合成等に地上部が関与し、地下部との伝達が行われることが推測される。