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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-445

東日本におけるブナとイヌブナの水平・垂直分布とこれを規定する環境・歴史要因

原 正利(千葉中央博)


植物の地理的分布は、現在の環境条件および分布移動の歴史性によって規定されている。前者について、特にマクロ空間スケールでは、一般に気候要因が最も支配的であると考えられ、この事から、分布限界付近における気候要因を帰納的に抽出して規定要因を推定し、気候エンベロープモデルを作成して分布予測を行うことが多い。しかし、この方法は、論理的には1種の循環論法であるため、歴史性の影響が大きな場合には、分布規定要因を正確に抽出しえないことに注意が必要である。一方、歴史性については、花粉分析など古生態学的研究の成果に拠る点が多いが、従来の方法では、空間解像度が低いため、小規模な遺存個体群は検出できない点に注意が必要である。さらに、分布限界に注目すると、分布上限(あるいは下限)と分布北限(あるいは南限)は気候要因の点からは類似するが、分布移動の点からは全く異なる限界である点にも注意が必要である。

以上の諸点を背景に、本研究では、我が国を代表する温帯性樹木であるブナとイヌブナを対象として、DS1:環境省メッシュ植生図データベースと、DS2:標本・文献情報等に基づくオリジナルデータベースを組み合わせて、東日本(新潟県・長野県・静岡県以東)における両種の水平分布と垂直分布を詳細に明らかにし、これと現在の気候その他の環境条件との対応を検討することで、1)分布の上限、下限、北限は現在の気候条件下で平衡状態にあるか? 2)各分布限界の規定要因は何か? 3)ブナとイヌブナの分布域の違いをもたらしている要因は何か?について推定する。さらに、4)垂直分布パターンの検討が、分布移動の歴史性を検討する上で有用であることを明らかにし、これに基づいて5)第四紀の気候変動下における両種の分布移動モデルを提案する。


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