ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-450
*津山幾太郎(森林総研),松井哲哉(森林総研・北海道),小川みふゆ(森林総研),小南裕志(森林総研・関西),田中信行(森林総研)
本州東部におけるチシマザサ(Sasa kurilensis)の分布を規定する気候変数とその閾値を明らかにし,気候変化がチシマザサの分布に与える影響を評価するため,チシマザサの分布確率を気候データから予測する分類樹モデルを構築し,現在と2081-2100年の潜在分布域を予測した.
説明変数は,植物の分布に重要と思われる暖かさの指数(WI),最寒月の日最低気温の平均(TMC),最大積雪水量(MSW),夏期降水量(PRS),冬期降雨量(WR)とし,現在の気候には旧メッシュ気候値を,将来の気候には気候統一シナリオ第2版を用いた.目的変数には,植物社会学ルルベデータベースから抽出したチシマザサの分布の有無データを用いた.モデルの精度検証には,ROC解析を用いた.また,ROC解析から予測精度が最高となる分布確率を求め,これを閾値として,潜在分布域を「分布適域」(生育に適する地域)と「分布辺縁域」(生育は可能だがあまり適さない地域)に区分して予測した.
分類樹モデルによるチシマザサの分布と気候データの関係の解析の結果,本州東部における各気候変数の分布規定要因としての重要度は,MSWが最も大きく,以下,WI,PRS,WR,TMCの順であった.また,チシマザサは,MSW≧97.7mmを満たす環境で分布可能で,分布適域はMSW≧215.6mm,かつWI≧30.7℃・月を満たす気候条件に限定されることが明らかになった.チシマザサの2081〜2100年における分布適域と分布辺縁域の面積は,MSWの減少とWIの増加により,低標高域を中心に縮小し,それぞれ現在の21.7%と67.1%に減少すると予測された.