ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-453
近藤弘幸(岡山理大),星野卓二(岡山理大),*片岡博行(津黒いきもの)
岡山県南部のトウカイコモウセンゴケ Drosera Tokaiensis の生育地は本州における分布の西限と考えられ,本種の分布を考える上で重要な地域である。しかしながら岡山県では,これまで県内産地を網羅しての形態の検討は行われておらず,コモウセンゴケ D.spathulata (以下コモウセン)が混生している可能性についても十分に論じられてきたとは言えない。そこで,岡山県産の本種がどのような形態的特徴を持つのかを調べるため,種子と葉の形態について県外産の本種及びコモウセンと比較・検討を行った。
その結果,葉の腺毛の発達している部分の長さと葉長の比の平均値はコモウセンが0.72±0.10に対し,岡山県産の本種では0.56±0.05であった。また,種子の長さと幅の比はコモウセン0.48±0.01,本種0.32±0.03であった。同時にいくつかの産地については染色体数の算定も行ったが,本種は,いずれも2n=60の6倍体であり,大型の染色体20本と小型の染色体40本が見られ,本種がモウセンゴケ D.rotundifolia とコモウセンの雑種起源で複二倍体であることが確認できた。また,中村・植田(1991)は本種の形態について地理的変異が存在する事を指摘しているが,岡山県産の本種の葉の形態は,中村らの示した近畿地方の値よりも東海地方の値に近かった。しかし種子サイズは中村らが東海地方の個体よりも大型であるとした近畿地方の個体の値よりも,より大型であった。
岡山県産の本種は形態的にもばらつきが少なく,形態上,コモウセンにあたるものは見つからなかった。しかしながら種内で比較すると隣接する近畿地方のものとは異なる形態を持っていることが明らかとなり,本種が地域によって多様な形態を持っている可能性が示唆された。