ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-457
*西田貴明(京大生態研),大串隆之(京大生態研)
植物根と共生するアーバスキュラー菌根菌(AM菌)は、土壌の栄養塩類の供給を増やすことで、植物の成長や栄養状態を向上させることがよく知られている。さらに近年、AM菌は地上部の植食性節足動物に対する植物の抵抗性を変化させ、特に、広食性植食者に対する抵抗性を高めることが示されてきた(Gange et al. 2002)。この植物の抵抗性の強化は、AM菌による栄養塩類の供給の増加が植物の防衛反応への投資量を増やすためであると考えられている。しかし、AM菌の植物根への感染は、植物の栄養塩類の供給を高めるだけでなく、植物根の細胞構造を変化させることで、迅速な植物の防衛反応をもたらす活性化状態(priming status)を誘導する可能性がある。本研究では、AM菌が植食性節足動物に対する植物の抵抗性に影響を与えるメカニズムを明らかにするため、室内実験において上記の可能性を検討した。土壌の栄養塩類が植物の成長の制限とならない高施肥条件と栄養塩類が不足した低施肥条件において、AM菌接種区と非接種区を設け、ポット植えのミヤコグサ(Lotus japonicus)を屋外型ガラス温室で育成した。これらのミヤコグサの抵抗性を、ナミハダニ(Tetranychus urticae)の産卵数を用いたバイオアッセイによって調べた。その結果、AM菌の接種は高施肥条件と低施肥条件の両方でハダニの産卵数を低下させることが示された。従って、AM菌による植物の抵抗性が栄養塩類のレベルに関わらず見られたことから、植食性節足動物に対する植物の抵抗性の向上は、AM菌の菌糸の感染による植物の防衛反応の活性化状態に由来することが示唆された。