ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-458
*白水貴,徳増征二
従属栄養生物である菌類とその宿主生物との関係は長年にわたって関連分野の研究者の注目を集めてきた。このうち、生きている生物とこれに寄生する寄生菌類や共生菌類との関係については多くの研究がなされ、宿主選択性や特異性を持つ菌種が存在することが明らかにされている。一方、腐生菌類に関しては宿主の種類と出現菌の間にある程度の対応関係があることが知られているが、その実態や宿主選択性についての研究は進んでおらず未だ明らかでない部分が多い。
本研究で材料としたアカキクラゲ綱菌類は、主に森林内で枯れ枝や倒木などの木材を分解する褐色腐朽菌の一群である。従来の研究により、本菌群には針葉樹または広葉樹に選択性を持つ種が存在するとされているが、これは主に分類学者の経験に基づいて判断されており、客観的な評価を下すには情報不足である。そこで演者らはアカキクラゲ類の針葉樹・広葉樹材に対する選択性を検証することを目的とし、野外調査による子実体の発生調査を行った。さらに室内実験にて各菌種の針葉樹材(アカマツ)・広葉樹材(ミズナラ)に対する分解力を検証し、野外で見られた樹種選択性を再評価した。
本邦の様々な樹林約50ヶ所で定期的に調査を行って子実体(キノコ)を採集し、詳細な顕微鏡観察と分子系統解析にて種の同定を行った。得られた菌種組成を調査地間および樹種間で比較した結果、針葉樹または広葉樹に選択性に出現する種群が存在することが示された。また、二項検定の結果に基づき針葉樹系・広葉樹系の菌種を明確に定義することができた。分解試験の結果、用いた全菌種が高い針葉樹材の分解力を有していることが示された。これらの結果から、アカキクラゲ類の本来の生息場所は針葉樹材であるが、野外において見られる分布は他の菌種との競争や環境要因に影響を受けた結果成立していると考えられた。