ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-468
*加茂野晃子,小島久弥(北大・低温研),松本淳(福井総合植物園),河村公隆,福井学(北大・低温研)
変形菌類(真正粘菌類)は、森林の林床などに生息しており、アメーバ類などと共にAmoebozoaに分類されるが、近縁な生物群とも異なる特異な生活環を有する。栄養増殖期にはアメーバ状の形態をとり、胞子形成期には胞子(直径約10マイクロメートル)を内包する子実体を植物遺体などの基質上に形成することが知られている。子実体の構造などから、変形菌類の散布様式として胞子の風散布が主要であると考えられているが、その直接的な証拠はほとんど得られていない。
本研究では、変形菌類の2科(カタホコリ科とモジホコリ科)を対象とし、PCR法を基盤とする分子生態学的手法によって空気中における変形菌類の出現とその季節変化を調べた。解析に用いるエアロゾル粒子は、北海道札幌市に位置する北海道大学低温科学研究所建物(3階建)の屋上で採取した。エアロゾル試料から直接抽出したDNAを用いてPCR解析を行ったところ、降雪期に採取した1試料を除く20試料において、空中浮遊変形菌類の存在が示された。PCR増幅産物の変性剤濃度勾配ゲル電気泳動解析では、季節的に変化するバンドパターンが認められた。検出されたDGGEバンドの塩基配列解析の結果、得られた9配列のうち4配列が、北海道で採集した子実体試料に由来する配列と同一であることが示された。各変形菌類種の子実体形成時期の違いが、エアロゾル中の変形菌類の組成における季節的変化と関連していることが明らかとなった。このことから、新しく形成された胞子が空気中に放出・散布されていることが示され、胞子の風散布が変形菌類の生活史において重要な過程であると推察された。