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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-471

屋久島の渓流帯と林床におけるホソバハグマとキッコウハグマの遺伝的、生理生態的分化―浸透性交雑の検証と光合成特性の比較解析

*三井裕樹(京大・人環),野村尚史(地球研),井鷺裕司(京大・農),戸部博(京大・理),瀬戸口浩彰(京大・人環)


屋久島に分布するキク科のホソバハグマとキッコウハグマは、著しく異なる葉形態と、渓流帯から林床の環境傾度に沿った明瞭な住み分けを示す。しかし、中間的な環境のもとでは、2種の交雑由来と考えられる自然雑種が数多く見つかっている。なぜこの2種は、生殖隔離が不完全であるにもかかわらず、入り混じることなく、明瞭に分化しているのだろうか。本研究では、まず、ホソバとキッコウが隣接して分布する地域で集団サンプリングを行い、核マイクロサテライトマーカーを用いて、雑種を介した遺伝子浸透の程度を検証した。その結果、隣接する種間でも、ほとんど遺伝子浸透が起きていないことが明らかになった。続いて2種の住み分けと、遺伝的分化をもたらす生態的要因として、光合成特性の違いに着目し、ホソバ、キッコウ、さらに中間的な形態と遺伝子型を示す自然雑種を用いて、比較測定を行った。その結果、中〜強光下(200−1800μmol m-2 s-1)では、ホソバの光合成効率(葉重量当たりの光合成速度)が高く、一方、弱光下(50−100μmol m-2 s-1)では、キッコウの光合成効率が高いことが明らかになった。また、葉重量当たりの暗呼吸速度は、ともにホソバが上回り、葉を維持するコストが高いことが示唆された。さらに自然雑種は、両種の中間的な光合成効率を示した。これらの結果から、強光に晒される渓流帯では、ホソバが効果的に光合成を行い、光が乏しい林床では、キッコウが生育に有利であることが示唆された。また、雑種は、渓流帯・林床のどちらの環境でも、光環境への適応度が低いため、淘汰圧が働くことによって、ホソバとキッコウの分断分化が促されていると考えられる。


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