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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-476

異なる食草を利用する能力間の正の遺伝相関が食草範囲に与える影響:現食草への適応は新食草への前適応をもたらすか

*菊田尚吾(北大・院理), 藤山直之(北教大・旭川), 片倉晴雄(北大・院理)


食植性昆虫の多様性を導いた要因として、食性の進化的変化が大きな役割を担っていることがこれまで多くの研究により指摘されてきた。食植性昆虫による食草変更や食草幅の拡大は、分類学的に近縁あるいは化学的性質が類似した植物の間でより生じやすいことが古くから認識されてきた。この傾向には、複数の食草が互いに近縁で化学的類似性が高いほど、それらの利用にはより共通した遺伝子群が関与するという多面発現が大きく係わっているものと考えられ、その場合には異なる食草を利用する能力の間に正の遺伝相関が検出されることが予測される。さらに、このような正の遺伝相関の存在は、現在の食草の利用能力を向上させるような自然選択が、現在は利用していない潜在的食草(群)の利用能力をも間接的に向上させる可能性を暗示している。つまり、現在の食草利用に関わる遺伝子群がもたらす前適応により、食性の進化的変化が生じやすくなっている可能性がある。

本研究では、上記仮説の検証の初期段階として、食植性テントウムシであるエゾアザミテントウを対象に、潜在的なものを含む様々な食草の利用能力の間に正の遺伝相関がどの程度存在するのかを、食草の分類学的な類縁関係に注目して調査した。幼虫を様々な食草で飼育し、得られた発育形質データを対象に、量的遺伝学の手法に基づいた解析を行った。その結果、科の異なる遠縁な食草の利用能力の間には有意な遺伝相関が検出されないのに対し、同属の近縁な食草間では正の遺伝相関の存在が強く示唆された。これらの結果は、エゾアザミテントウの食草利用能力のある部分は正の遺伝相関をもたらすような共通の遺伝子群の多面発現によってもたらされており、これが潜在的な食草幅の決定に影響を与えていることに加え、その影響は食草の類縁関係が近いほど強い可能性を示している。


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