ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-479
池田紘士(京大・理),久保田耕平(東大・農),曽田貞滋(京大・理)
個体群間の隔離は遺伝子流動を阻害し、その結果として種分化をもたらす。地理的障壁による隔離は最も普遍的なものであると考えられているが、どの程度の地理的障壁が個体群間の分化をもたらすかは生物の生活史に応じて大きく異なり、動物においては、分散能力や生息地の不連続性などによる影響を受ける。分散能力の有無や生息地の不連続性のそれぞれが地理的分化に与える影響についてはいくつか研究例があるが、これらの交互作用について調べた研究例はほとんど無い。
昆虫は、飛翔能力を獲得することによって様々な地域へと分布を拡大した。ヒラタシデムシ亜科では、飛翔能力の有る種、及び無い種が存在し、それぞれにおいて山地性の種と低地性の種が存在する。山地は谷や盆地によって分断されるために低地に比べてより不連続であり、特に日本のように地形が複雑な地域では分断の程度は強いと考えられる。本研究では、飛翔能力及び生息地の異なるヒラタシデムシ亜科8種の間で個体群間の遺伝的な分化を比較し、飛翔能力の有無と生息地の不連続性が地理的分化に与える影響について検討した。その結果、飛翔能力の無い種のほうが個体群間の分化の程度は大きく、さらに、飛翔能力の退化した種に限り、生息地の不連続性が遺伝子流動を大きく低下させることが明らかにされた。解析に用いた飛べない2種のうち、ホソヒラタシデムシは本州に分布し、ヒラタシデムシは北海道に分布する。これら2種間では生態(食性、繁殖形質、適した気温等)にはほとんど違いは認められない。生息地の違いは、本州のほうがより温暖なために本州の種の分布が山地に限られることと、本州が起伏の激しい複雑な地形であるために生息可能な地域が山地においてより不連続に分布することが原因だと考えられる。