ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-488
*川津一隆,奥慎太郎(京大院・農・昆虫生態)
*川津一隆,奥慎太郎 (京大院・農・昆虫生態)
Fisher(1930)によって1:1性比の原理が提出されて以来,性比研究の中心的テーマは偏った性比を持つ生物をいかに適応的に説明するかという点にあった.それらは主に局所的配偶競争(Hamilton 1967)に代表される同性血縁者間の相互作用を中心として行われてきたが,異性間相互作用が性比に与える影響についての議論はほとんどなされていない.一方で,近年の行動生態学の進展は異性間の交渉,特に雄の行動が雌の適応度に大きく影響し,結果として個体群動態にも影響を与えることを示している(Rankin & Kokko 2007).それらの行動の中でも特に重要であるのが,雄による雌へのセクハラ(sexual harassment)である.
セクハラによる雌の適応度減少の程度は雌雄の出会い頻度に依存するため,個体群内における二次性比と雌雄の密度によって決定されることになる.一方で,この二つのパラメータは個体群内の各母親の性配分によって影響を受けるため,性配分戦略はセクハラという異性間相互作用を通して母親の適応度を影響しうる.したがって雄によるセクハラが存在する状況下ではESS性比が変化する可能性がある.
そこで今回,我々は従来のESS性比モデルにセクハラの効果を組み込むことでその影響を検討した.さらに,雌雄の密度と,それに対する雄の反応の違いがESS性比にどのような影響を与えるのかについても解析を行った.その結果セクハラの効果を組み込んだ場合は元のモデルよりもESS性比は雌に偏っており,また,その偏りの程度には密度それ自体の変化よりも,それに対する雄の反応の違いが大きく影響していることが分かった.これらの結果は,従来と異なり,セクハラを通じて配偶システムの違いが性配分戦略に影響を与える可能性があることを示している.