ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-492
*中野亮(東大・農学生命),高梨琢磨(森林総研),Niels Skals(南デンマーク大),Annemarie Surlykke(南デンマーク大),石川幸男(東大・農学生命),田付貞洋(東大・農学生命)
動物は,捕食者や食餌を認知するために様々な感覚器を発達させてきた.種内交信の進化モデルの一つである感覚便乗モデルは,「種内交信はこの既存の感覚器の感受性に便乗して進化した」とするモデルである.ガ類は,捕食者であるコウモリの発する超音波を検出するため,超音波に高い感受性を示す聴覚を獲得したと言われている.音響交信を行うガ類における信号の進化は,感覚便乗モデルに当てはまる可能性がある.すなわち,捕食者の認知用に獲得した聴覚の感受性に便乗する形で,音響(超音波)交信が進化したとの推定が可能である.そこで,我々はオスが超音波を発して求愛するアワノメイガを用い,感覚便乗モデルの妥当性を検証した.無音化したオスの求愛時に,オスの合成音またはコウモリの合成音をメスに呈示したところ,両合成音の間で,メスの交尾受け入れに及ぼす効果に差はなかった.また,コウモリの超音波照射に対する回避反応である,動きの停止(不動化)は,オスの超音波でも同様に引き起こされることが別の実験で分かった.以上から,本種のメスはオスの超音波とコウモリの超音波を識別しておらず,求愛時におけるオスの超音波はメスのコウモリ回避行動(不動化)を引き起こすこと,オスは超音波の発信により結果的にメスの逃避(交尾拒否)を抑制することで交接の機会を増加させていることが分かった.これらの結果は,本種におけるオスの信号の進化が感覚便乗モデルに合致することを示している.