ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-521
*田代正徳, 中村達夫, 藤原一繪(横国大・院・環情)
近年、植栽された樹木による在来自然林への遺伝的撹乱が懸念されている。特にブナ・シイ・ナラなど森林を構成する主な種について、遺伝資源保存の観点から、遺伝子を用いた地域性の保存の必要性が求められている。先行研究で日本の冷温帯に広く分布する、ブナなどの主な落葉広葉樹林構成種については、日本全域や関東地方など異なるスケールで遺伝的変異が報告されている。またマイクロサテライトマーカーやミトコンドリア、葉緑体DNAの塩基配列など、様々な手法を用いて研究がなされている。一方、日本の暖温帯に分布する照葉樹林構成種に関する同様の研究は、依然不十分である。そこで本研究では、照葉樹林の主な極相種であるスダジイ及びアカガシを対象とし、地域的スケールでの遺伝的変異を把握することを目的に、葉緑体の塩基配列に関する研究を行った。
関東地方において、スダジイ及びアカガシの分布が知られている自然林を選択し、各地を踏査した。スダジイ40箇所188個体、アカガシ18箇所58個体の葉を採取、シリカゲルとともに乾燥保存した。全DNAを抽出し、葉緑体DNAの非コード領域の一つであるtrnL intronの塩基配列を、ダイレクトシークエンス法にて解析した。手始めに、対象領域に多型が存在することを確認するため、茨城県筑波山、神奈川県横浜市、神奈川県箱根町、静岡県伊東市、比較のため山口県周防大島町のスダジイ5個体を解析した。その結果、解析したすべての個体で塩基配列が一致した。同じブナ科のブナでは、trnL intronに変異が存在することが明らかになっており(Fujii et al, 2002)、スダジイではブナより変異率が低い可能性が示唆された。そこで、解析は1箇所1個体とし、現在他の葉緑体非コード領域の解析を行っている。本学会では、スダジイ及びアカガシについて、その解析結果を報告する。