ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-539
*片渕正紀(東北大・生命), 横山潤(山形大・理), 中静透(東北大・生命)
共生は生物多様性の維持にも貢献する重要な種間相互作用である。熱帯雨林のキーストーン種であるイチジクとイチジクコバチは共生のモデルとして知られており、花序内の創設雌の数はイチジクとコバチの両方の繁殖に影響する。花序内の創設雌が増加すると産卵場所の競争が起こり、その結果、創設雌あたりの産卵数が減少することが知られている。また創設雌の増加は種子の被食を増加させるので雌雄同株イチジクでは種子数の減少をもたらす。したがって花序内の創設雌の数を少なく保つことで雌雄同株イチジクの共生は安定していると考えられる。それに対し、雌雄異株イチジクでは創設雌の増加が種子数の増加をもたらすことが示されている。コバチが不利になるにも関わらず、雌雄異株イチジクの送粉共生は創設雌の数を高く保つことで安定しているのだろうか。コバチに近交弱勢が存在すれば複数の創設雌が同一の花序に入り産卵することが有利になるかもしれない。
そこで本研究では、SSR8座を用いて雌雄異株イチジクFicus fistulosa(クワ科)のポリネーターであるコバチCeratosolen constrictus(イチジクコバチ科)の花序内での血縁関係を推定し、近親交配の程度(F)と近交弱勢を調べた。
その結果、(1)創設雌は複数で花序に入る傾向があった。(2)形態への近交弱勢は認められなかった。(3)創設雌の分布から予測されるFよりも遺伝子型から推定されたFの方が大きかったにも関わらず兄弟姉妹(full sib)間での交配の割合は遺伝子型から推定されたものの方が小さかったため、生存率への近交弱勢がないとは言えなかった。
以上の結果をもとに、雌雄異株イチジクにおける送粉共生の安定・進化を考察する。