ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-545
*鶴井香織(京大院・農・昆虫生態)・西田隆義(京大院・農・昆虫生態)
分断色とは、体の輪郭を横切るようなコントラストの強い体色により捕食者による発見を妨げるカムフラージュ戦略である。これまで分断色はその隠蔽機能のみが注目され、他の相互作用に与える影響は全く考慮されていなかった。本講演では分断色がもたらす性的干渉のコストを考慮し、分断色による隠蔽効果と分断色による性的干渉の間にトレードオフが存在することを示す。
ハラヒシバッタは性に依存した色斑多型を示す。メスは100%分断型だが、オスは無紋型65%と分断型35%が安定的に共存している。また、性的サイズ二型を示しオスはメスより小さい。これまでの研究で、分断色による隠蔽度上昇は体サイズが大きいメスでより大きいが、オスメス共に分断型は無紋型よりも隠蔽的である事が解っている。全てのメスが分断色を持つ理由は、大きくて目立つため分断色を持たなければ十分な隠蔽度を実現できないからだと考えられる。一方、オスに無紋型が安定的に存在していることは分断色の持つ捕食回避のベネフィットだけでは説明できない。
ハラヒシバッタのオスはダンスによりメスに求愛する。視覚的な配偶行動をとる本種では体色パターンは配偶者認識に重要である可能性がある。そこで分断色には「メスと認識され、他オスから性的干渉を受ける」というコストが存在すると予測し、1)ダミーメスを用いた求愛実験及び2)オスの分断紋ペイント操作による配偶者選択実験を行なった。実験の結果、1)オスは分断紋をメス認識のキューとし、2)オスが分断紋を持つと他オスから強い性的干渉を受けることが明らかとなった。
以上のことから、無紋オスが存在する理由は、オスでは分断色を持つことによる他オスからの干渉コストが隠蔽によるベネフィットと同等もしくは上回るためと考えられた。