ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-548
*吉澤樹理(岐阜大院・応用生物),山内克典(岐阜大学名誉教授),Heinze Jurgen(Universitat Regensburg),土田浩治(岐阜大・応用生物)
多女王制のアリは、一般的に女王間における攻撃行動は希薄であると報告されているが(Heinze, 1993)、クロツブハダカアリ(Cardiocondyla sp.)では、巣内に複数の新女王が存在する場合、新女王間で繁殖をめぐる戦いが起こり、劣位の個体は未交尾のまま巣の外へ追い出される(Yamauchi et al., 2006)。また、多女王のコロニーの方が単女王のコロニーより、early male(早期羽化雄)生産を行う傾向が強い。本種のearly maleは無翅型の闘争型個体であり、先に羽化した個体は後から羽化する個体を殺す。劣位の新女王はワーカーにより母巣外へ追い出されることがあり産卵の機会は少ない。しかし、劣位であってもライバルの新女王より先に自分の息子を残すことが出来れば、息子は後から産まれてくるライバルの雄を殺し、新しく産まれてくる多数の女王と独占的に交尾し子供を残すことができると予想される。
これまでに、複数の女王が存在する場合にはearly maleを生産し、単独の場合にはワーカーを生産した後、繁殖虫を産むと報告されているが、ライバル女王の状態とearly male生産との関係は明らかにされていない。そこで、本研究ではクロツブハダカアリを用いて実験条件下で女王間のearly male生産について調査した。その結果、未交尾女王は巣内で単独の場合孵化しない卵を産むが、ライバルの女王(未交尾女王or既交尾女王)を巣内に投入した場合、未交尾女王はその後孵化するearly maleを産卵した。これらの結果から、未交尾女王は、羽化後母巣から追い出されるまでの間にearly maleを母巣内で産卵し、自身の遺伝子を残している可能性が示唆された。