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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-559

おせっかいなシロアリ〜ヤスデ卵への保護行動〜

*矢代敏久, 松浦健二(岡大院・環境)


これまで擬態に関する多くの研究が共進化の観点から行われ、進化における騙す側と騙される側の関係が明らかにされてきた。ところが、そもそもの擬態という関係の起源ついての研究は不足しており殆ど解明されていない。本研究では、最近我々が発見した驚くべき異種間での形質の偶然の類似によって引き起こされている生物間相互作用について報告し、擬態という関係が生じる前適応的要因について考察する。

シロアリ職蟻は女王の産んだ卵を物理的(形、大きさ)及び化学的(卵認識フェロモン)に認識し、卵塊中に運搬し、抗生物質を含んだ唾液でグルーミングすることにより、卵を糸状菌やバクテリアから保護している。このシロアリの高度に進化した卵保護行動を寄生的に利用する菌類が知られている。この菌類の作る菌核(ターマイトボール)はシロアリ卵へ物理的及び化学的に擬態しており、シロアリ巣内というほぼ競争者のいない環境で棲息できる。最近、我々はこの菌による高度な卵擬態と類似した現象がヤスデの卵においても引き起こされていることを発見した。

先ず、大規模なサンプリングの結果、温帯から亜熱帯地域にかけての広い地域で、複数種のシロアリの卵塊中での複数種のヤスデ卵の保有が確認された。次に、実験的にヤスデ卵をシロアリ職蟻に与えても卵塊中に運搬し、シロアリの卵認識フェロモンをヤスデ卵に塗布すると本物のシロアリ卵と同等の卵運搬活性を示すことが判明した。さらに、このシロアリの保護行動はヤスデ卵の生存率を有意に低下させることが判明した。これらの結果は、複数種のヤスデ卵は共進化の過程を経ることなくシロアリ卵と形態的に類似しており、擬態している生物が引き起こすのと同様の現象を生じさせていること示している。したがって、前適応的な偶然の類似は擬態関係が生じる重要な要因の一つであるに違いない。


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