ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-567
*川喜多愛,石原道博(大阪府大院・理)
多化性の昆虫は時間的に変動する環境に適応した結果、翅多型や季節多型、そして休眠誘導の光周反応といった表現型可塑性を示す。これらの昆虫には休眠世代と非休眠世代があり、この表現型可塑性と関係している。休眠世代は休眠の維持にエネルギーを消費するため、休眠後の個体には体サイズの減少や産卵数の減少などの休眠のコストが存在すると考えられる。そこで本研究では、多化性で、春型と夏型という季節多型を示すアゲハチョウ科のキアゲハを用いて、休眠のコストを評価し、季節型と休眠の関係について検討した。キアゲハは蛹で休眠し、休眠の覚醒に一定の低温期間を要する。そのため、休眠誘導後の常温の期間と低温の期間のどちらが休眠のコストとして重要になるかを、双方の期間を変化させることで評価した。
その結果、常温期間と低温期間のどちらにおいても、各期間の長さに伴った羽化成虫の体サイズの減少は見られなかった。しかしオスの蛹重量は常温期間、および低温期間が長くなるにつれて減少した。メスの蛹重量は低温期間のみにその傾向が見られた。非休眠個体(夏型)と比べると、休眠個体(春型)は蛹になるまでの発育期間が短く、蛹重量が有意に小さくなった。春型は低温や寄主植物の質の低下など発育に不適な環境になる前に確実に越冬蛹になる必要があるため、短い発育期間が選択されたと考えられる。これらの結果から、季節型間の体サイズの違いには日長条件による発育期間の違いが関わっており、休眠のコストは体サイズではなく成虫寿命や蔵卵数に影響するのではないかと考えられる。