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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-568

メダカの成長速度の緯度間変異におけるクレード内およびクレード間パターンについて

*阿部真和,山平寿智(新潟大学)


緯度の上昇に伴う環境温度の低下は、変温動物の年間成長量を減少させるはずである。しかし実際には、高緯度の個体は低い年間成長量を補償するような適応を進化させていることが様々な変温動物種で知られている。そのような‘緯度間補償’の進化には、(1)高緯度の個体ほど(短い期間に集中して成長を遂げるべく)成長速度の温度反応基準を垂直上方に進化させる‘季節性適応モデル’と、(2)高緯度ほど(成長期間を延長すべく)成長の反応基準を低い温度領域へと水平に進化させる‘温度適応モデル’が提唱されている。これまでに両モデルとも実証的な支持を得ているが、概して、同一種内の地域集団間の比較では季節性適応モデルが、近縁種間の比較では温度適応モデルがそれぞれ支持される傾向にある。これは、温度反応基準の進化における遺伝的制約を示しているのかもしれない。日本に分布するメダカOryzias latipesは、mtDNAの多型によって‘北日本クレード’と‘南日本クレード’という南北に側所分布する2つのグループに大別され、両クレードは400〜600万年前に分岐したと考えられている。

本研究では、成長速度の温度反応基準の変異パターンを(1)各クレード内の地域集団間、および(2)両クレード間で比較した。共通環境実験の結果、どちらのクレード内においても反応基準は集団間で垂直方向にのみ変異しており、季節性適応のみが進化していることがわかった。また、クレード間の反応基準の変異パターンも季節性適応を支持していた。一方、反応基準の水平方向のずれは、クレード内、クレード間とも検出されず、温度適応の進化は遺伝的に制約されていることが示唆された。反応基準が水平方向にずれるような突然変異の出現と固定は、少なくとも400〜600万年以上の時間スケールでしか起こりえないプロセスなのかもしれない。


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