ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-574
*鈴木紀之,西田隆義(京大院・農・昆虫生態)
最適な子の大きさが決まる理論(Smith & Fretwell 1974)に従えば、「母親は体サイズ(総投資量)によらず一定の大きさの子を産むべき」ことが予測される。しかしながら、しばしば小さい母親は小さい子しか産めず、個体群内において母親の大きさと子の大きさに正の相関が生じることがある。この現象は主に、産卵管の太さなどを原因とする「形態的制約」が子の大きさを制限していると解釈されている。
このような非適応的な制約が存在する場合、母親は最適な大きさの子を産めるように(1)産卵器官を大きくし、(2)卵の形を縦長にして卵を通りやすくすることが予想される。私たちは親と子の大きさの関係における形態的制約の重要性を明らかにするために、チョウの一種ウラナミジャノメ(年2回発生)を用いてこの仮説を検証した。
成虫サイズと卵サイズの関係を世代間で比較した結果、第2世代ではメス成虫が体サイズの割に大きい卵を産んでいるにもかかわらず、成虫サイズと卵サイズに正の相関が生じない(形態的制約が現れない)ことが分かった。また、成虫の胴体と翅のプロポーションおよび卵の形を世代間で比較した結果、第2世代の成虫は第1世代よりも(1)翅に比べて胴体の割合が高いこと、さらに(2)小さい母親ほど縦長の卵を産むことが分かった。
以上の結果から、ウラナミジャノメでは(1)母親の形態および(2)子の形態を可塑的に調節することによって卵サイズにかかる形態的制約を緩和していることが明らかになった。したがって、たとえ母親の大きさに関わらず子の大きさが一定だとしても、小さい母親にかかる形態的制約の潜在的な影響は無視できないことが示唆された。昆虫において、卵の形の柔軟な変化を報告するのは本研究が初めてである。