ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-575
*上野篤史(滋賀県大), 金尾滋史(多賀町博/滋賀県大院), 久米学(土研自然共生研究セ), 近雅博(滋賀県大)
滋賀県東部を流れる犬上川の下流域はトゲウオ科ハリヨの生息地の1つである.国内のハリヨ生息地の多くが人工的な止水域である中,犬上川は河道内に湧水起源のワンドやタマリが多く存在する数少ない自然条件下の河川である.これまでの演者らの調査によって,犬上川下流域では,本流だけではなく,ワンドやタマリにもハリヨの生息が確認された.そこで本研究では,ハリヨが犬上川下流域に存在する性質が異なる環境(本流とワンド・タマリ)をどのように利用しているのか,を明らかすることを目的とした.
まず,本流とワンド・タマリにおいて,2008年6月から11月にかけてハリヨの採集調査を行った.その結果,本流とワンド・タマリでは,異なる体長組成を示した.すなわち,調査期間を通して,本流では単峰型の体長組成を示し,主に標準体長40mm以下の個体が採集された.一方,ワンドやタマリでは二峰型のそれを示し,体長50mm以上の大型個体も採集された.また,本流とワンド・タマリの間を移動する個体が確認された.これらのことから,本流とワンド・タマリでは,その生活場所としての機能が異なることが示唆された.次に,本流においてハリヨの生息密度と水温の関係を調べたところ,両者の間には負の相関が認められた.このことは,高水温がハリヨの分布制限要因であることを示しており,既往と一致している.加えて,7月から本流と隔離されたワンドでは,低水温にもかかわらず,本種の生息密度は著しく低かった.以上の結果から, 犬上川下流域では,ハリヨは本流とワンド・タマリという異なる環境を巧みに使い分けていること,および水温や本流-ワンド・タマリ間の連続性が本種の分布制限要因となっていることが示唆された.