ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-578
*片平浩孝, 水野晃秀, 海野徹也, 長澤和也(広大・生物圏)
寄生虫は他の生物と同様に、常に環境の変動にさらされている。たどり着いた先の宿主がいつも最適であるとは限らず、寄生虫は宿主によって様々な環境を経験する。これらの環境の違いに寄生虫はどのように対処しているのだろうか。
私達は愛媛県南部の御荘湾において、線虫Heliconema longissimumがウナギAnguilla japonicaに寄生していることを確認した。H.longissimumはウナギを終宿主とし、その胃内に寄生している。このような内部寄生虫は宿主を変えることができないため、寄生部位の環境に対応した何らかの形質変化が存在すると予想される。例えば、宿主の体サイズおよび寄生虫自身の密度や性比の偏りによって、体長や成熟サイズに違いが生じているかもしれない。
以上を検証するために、2008年4月から11月までウナギを定期的に採集し、全長と内臓除去重量を測定したのち、H.longissimumの寄生数を調べ、各個体の体長測定と性判別を行った。性は陰茎および子宮の有無を確認して判別し、各個体を成体オス、成体メス、幼若個体に分けた。メスはさらに、卵の有無および卵の発生段階から未成熟、成熟、完熟の3段階に区別した。
その結果、H.longissimumはその寄生数が多い場合には、性比が一定の値に収束し、雌雄の体長は小さくなり、メスでは完熟個体が優占する傾向が認められた。寄生数が少ない場合には性比が偏る傾向にあるが、偏りに応じたオスとメスの体長変化が確認された。以上のことから、H.longissimumは体長や成熟サイズを変化させることで自身の様々な寄生数に対応していると考えられる。