ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-584
岡野淳一(東北大学生命科学研究科),菊地永祐(東北大学東北アジア研)
多くの可携巣トビケラの幼虫は,まわりにある巣材資源から適切な巣材を選び,分泌した糸で綴り合せて巣をつくる.また,巣の内壁に分泌した糸で内張りをするが,これは巣内壁を滑らかにし,呼吸のための蠕動運動を円滑にしているとされている.もし,この説が本当であれば,トビケラ幼虫は表面の粗い砂に対してより内張りを厚くし,また表面のより滑らかな砂を好むことが考えられる.
本研究では日本で一般的な,砂を使って可携巣をつくるニンギョウトビケラ(Goera japonica)に,それぞれ3種の表面粗さが異なる人工砂(粗い,中間,滑らか)で,巣を修復させる実験を行った.そして修復した巣に使われた分泌物量を測定し,3種の人工砂でつくられた巣間で比較した.また,3種のうち2種の人工砂の組み合わせから,トビケラ幼虫が巣修復のために,どちらの砂を巣材として選ぶかを観測した.
その結果,粗い表面の砂を使った場合,滑らかな砂を使った場合より平均244%分泌物が多く,中間の表面粗さの砂よりも平均60%多かった.このことから,トビケラ幼虫は砂の表面が粗くなるほど,多くの内張りのための糸を分泌していることが示され,内張りが巣内壁を滑らかにしているという説を支持するものとなった.また,選択実験では滑らかな砂と中間の砂に比べ,粗い砂は巣材としてほとんど使われることがなかった.また,滑らかな砂と中間の砂では,滑らかな砂をより多く選択したが,その違いは小さかった.この結果から巣材選びのコストと,内張りのための分泌物量の間にはトレード・オフ関係があることが考えられた.