ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-595
衣浦晴生(森林総研関西)
ナラ枯れ(ナラ類集団枯死)は1990年代以降終息することなく拡大を続けており、日本各地で問題となっている。そのため病原菌の伝搬者であるカシノナガキクイムシについて、材内生態や飛翔行動などこれまでに詳細な研究が行われている。しかし本種成虫が、樹体内から外界に脱出してから次の寄主木を見つけて穿入するまでの期間、どこで生息しているかについてはほとんど知られていない。そこでナラ類集団枯死微害地において、地中や落葉層から羽化する昆虫を捕獲する羽化トラップによって、カシノナガキクイムシの捕獲調査を行った。調査地は滋賀県大津市のコナラ・クヌギ・アベマキ等を中心とする二次林で、2007年に初めて数本の穿入枯死木が発生し、次年度以降の被害拡大が予想された約0.4haの範囲を調査区とした。前年の集中加害によるコナラ枯死木の直下と、人工的に集中加害を起こすために集合フェロモン剤を設置したクヌギの直下、およびその中間付近にテント状の羽化トラップ(磯野、2006:特許出願中)を設置して、2008年6月上旬から9月上旬まで3日毎に回収を行った。また枯死木のコナラ穿入孔には羽化脱出トラップを、フェロモン剤設置のクヌギには粘着トラップを設置して、カシノナガキクイムシの脱出数と飛来数、およびクヌギへの穿入孔数を同時に計数した。その結果、枯死木からの羽化脱出と同時期に、土壌からの羽化トラップにはカシノナガキクイムシが捕獲されはじめ、次に粘着トラップ、その後に穿入孔が確認されはじめた。また枯死木直下よりも新たな穿入木直下で、より早くまた多くのカシノナガキクイムシが捕獲された。これらのことから、カシノナガキクイムシは羽化脱出後、新たに穿入する寄主木に飛来し、その後穿入するまでの間、落葉層に生息することが推察された。またこのことは、低い部分ほど穿入密度が高いことの原因の一つとも推察された。