ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-597
*名護ほたる(琉大・農), 辻和希(琉大・農)
南西諸島の固有種であるオキナワマドボタルPyrocoelia matsumuraiでは実験室内において未交尾雌による産卵がしばしば観察される。本研究ではこの行動に果たして適応的意義が存在するのかを明らかにすることを本研究の第一の目的とする。さらに本種の基本的な繁殖生活史の解明も目指した。
本種の成虫は寿命が約2週間と短く餌をとらないという特徴を示す。雌は羽化時に持つ栄養だけにほぼ依存し繁殖すると考えられ、未交尾産卵は食卵による栄養の再吸収や単為生殖がないときは資源の浪費であり極めて非適応的な行動に思える。そこで未交尾産卵が生じる理由として以下の3仮説を立てデータによる検討を行った。1.本種は単為生殖が可能で雌が交尾できなかったときに未交尾産卵する。2.一般にいわれている産卵のコストとは逆に本種には産卵しないことにコストがあり、雌は交尾が遅れたとき一部の卵を産卵することで寿命を延ばし交尾機会を増やす。3.野外で雌は産卵開始前にほぼ100%交尾ができるため、未交尾産卵は人為的な環境で生じた非適応的行動である。
その結果、未交尾雌の卵は孵化せず、交尾雌の卵は高い確率で孵化した。また、野外観察から、本種の雌は未交尾産卵開始が予測される時期に高い確率で既交尾である可能性が示唆された。さらに、未交尾産卵をさせた雌と禁止した雌では寿命に違いは見られなかった。これらのことから、仮説3がもっともらしいことが示唆された。
また、雌の体重と卵数に正の相関があり、体重と寿命に相関はなかった。このことから本種の雌は資源を延命より繁殖に分配することがわかった。また、交尾と産卵パターンの関係や交尾行動の観察から本種の雌は1回交尾・1回繁殖であることが示唆された。