ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-604
*松崎慎一郎(東大,農),高村典子(国環研/東大),荒山和則(茨城県内水試),冨永敦(茨城県内水試),岩崎順(茨城県内水試),鷲谷いづみ(東大,農)
1998年以降,霞ヶ浦ではチャネルキャットフィッシュ(Ictalurus punctatus,北米原産)が急増している.魚食性を示す高次捕食者であることから,在来魚への影響が懸念されており,特定外来生物に指定されている.
本発表では,茨城県内水面水産試験場が定置網を用いて行っている霞ケ浦の長期モニタリングデータ・農林水産統計(1993−2005年)を使用し,キャットフィッシュが在来魚類と生態系サービスに与える影響を明らかにした.
在来魚類17種(テナガエビ1種を含む)とキャットフィッシュの個体数密度(CPUE)との関係をGLMMにより解析した.解析では,影響の遅れ(タイムラグ)を考慮し,当年と前年のキャットフィッシュ密度を説明変数として用いた.解析の結果,在来魚7種で負の相関が認められた.特に,ハゼ科魚類とテナガエビでは回帰係数が大きかった.また負の相関が認められた在来種はどのような種特性をもつかを明らかにするために,各魚種の主要な種特性をデータベース(FishBase)から調べた.負の影響を受ける在来魚は,体サイズが小さく,食性幅(利用できる餌資源数)が狭いという特性をもっていた.キャットフィッシュの口の大きさが比較的小さいことから,捕食や餌をめぐる競争を通じて負の影響を及ぼすことが考えられた.
霞ヶ浦の伝統的な水産加工品であるエビ類・ハゼ類の佃煮販売量・販売額は,キャットフィッシュの個体数密度と負の相関関係が認められた.また,漁業者数の変動を解析に含めても,キャットフィッシュの急増した2000年前後から,それらは大きく減少していた.
以上の長期データの解析から,キャットフィッシュは在来魚の群集構造を変えるだけでなく,生態系サービスにも影響が波及している可能性が示された.