ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-608
*諏訪部真友子,辻和希(琉球大農)
林道の建設は、森林生態系において最も影響力の強い人為撹乱の一つである。林道沿いは林内に比べ、高温で乾燥しており、林床が明るいという環境上の特徴を持つ。さらに林道沿いは、車両の通行や風雨に伴う撹乱や天敵からの攻撃を頻繁に受ける環境であるといえる。そのため森林内に建設された林道は、エッジ効果を介して森林性の生物群集の構造を変えてしまうだけでなく、外来種にとって好適な環境を提供し、侵略の足がかりにもなる。
本研究では侵略的外来種の一種であるアシナガキアリの森林内部への侵入に林道の存在が影響しているかどうかを調べた。アシナガキアリは、IUCNが定めた世界の外来種ワースト100にランクインするほど影響力の強いアリで、世界各地で本種による生態系被害が報告されている。にもかかわらず、その他の外来アリ(アルゼンチンアリやヒアリ)に比べるとアシナガキアリに関する生態学的な研究は乏しい。
そこで、異なる2つの侵入地域(沖縄とクリスマス島)で本種を採集し、その分布域が林道から森林内へ及んでいるかどうかを調べた。その結果、沖縄ではアシナガキアリは林道付近で頻繁に採集され、林道から10m以上進んだ森林内部では全く確認されなかった。一方、クリスマス島ではアシナガキアリは林道沿いだけでなく林道から50m離れた森林内部まで広く分布していた。
一般に外来アリは撹乱の頻度が高い場所を好むと言われているが、クリスマス島で得られた結果はこれを支持しない。このことは、林道が外来アリの侵入に与える影響は単純に撹乱頻度からくるものではなく、温湿度や競争種の存在、餌資源などのその他の環境要因が同時に作用している可能性を示唆している。