ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA2-615
*下野嘉子(畜草研),小沼明弘(農環研)
輸入穀物の中には様々な雑草種子が混入しており、穀物貿易は外来植物の侵入経路の1つとして認識されている。外来植物の中には、日本に分布しない新たな種だけでなく、日本に既に分布するものの遺伝子型の異なるタイプが含まれる。これらは既存種と交雑可能なため、遺伝的撹乱というインパクトを生態系に及ぼしかねないが、外見からでは区別がつきにくいため実態解明の研究は限られている。本研究では、近年世界中で問題となっている除草剤抵抗性という遺伝形質に注目し、輸入穀物に混入する除草剤抵抗性雑草について、その混入割合と抵抗性を付与する遺伝変異の有無を調査した。
2006、2007年に輸入された西オーストラリア産小麦各20kgに混入していたボウムギ(Lolium rigidum)種子を対象に、オーストラリアの小麦畑で使用頻度の高いジクロホップメチル(ACCase阻害剤)、クロルスルフロン(ALS阻害剤)に対する除草剤感受性試験を行った。抵抗性と判断された個体のACCase遺伝子およびALS遺伝子の塩基配列を決定し、抵抗性を付与する遺伝変異の有無を調査した。
両年とも小麦20kgあたり4千個以上のボウムギ種子が見つかった。ジクロホップメチルに対する抵抗性個体の割合は30〜50%、ACCase遺伝子の変異は抵抗性個体の80%で見つかった。残り20%はACCase遺伝子上の未知の変異が抵抗性を付与しているか、代謝向上など、ACCase遺伝子以外の変異により抵抗性を獲得しているものと考えられる。クロルスルフロン抵抗性個体の割合は両年とも75%にのぼり、ALS遺伝子の変異は抵抗性個体のほぼ全数に見つかった。この抵抗性形質は核にコードされた優性の1遺伝子に支配されているため、他殖種では花粉を介して抵抗性形質が伝搬しやすい。今後は、除草剤抵抗性雑草の日本における定着の有無を把握し、雑草管理を考える必要がある。