ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB2-640
*長谷川陽一, 陶山佳久, 清和研二(東北大院・農)
花粉や種子の散布が動物によって行われる場合には、その散布パターンは散布者の行動様式に大きく依存して決定される。花粉と種子では大きさや重さが異なることから、花粉と種子の散布は異なる動物によって媒介されることが多いく、それらの散布パターンは異なることが予測される。また、植物個体群内および個体群間の遺伝子流動は花粉と種子の散布によって行われるので、個体群の遺伝的な組成と個体及び個体群のパフォーマンスは散布者の行動様式の影響を受けるだろう。本研究では、虫媒で動物散布種子を生産する樹木であるクリを対象として、その花粉・果皮・実生のDNA分析による花粉・種子散布パターンを明らかにし、散布者の行動様式が散布パターンに与える影響について考察した。
調査地において成木と実生の分布は尾根上部に集中していて、パッチ状に3つの局所個体群を形成していた。また、成木と実生の個体群には共に空間的遺伝構造が確認された。実生の葉と果皮のDNA分析から、花粉散布(平均46.9 m)は種子散布(16.8 m)に比べて有意に距離が長かった。種子散布は局所個体群の内でのみ見られた。個体群間は谷によって分断されていたので、地形が種子散布を制限していた要因と考えられる。一方で、昆虫体表に付着した花粉のDNA分析から、昆虫の種類によって花粉散布パターンが異なることや、昆虫が複数の樹木個体の花粉を付着させたまま訪花することで起きる花粉の持ち越しも花粉散布パターンに影響することが示された。さらに、空間的遺伝構造の範囲外への長距離花粉散布は二親性の近交弱勢を回避するうえで有効である可能性が示唆された。花粉と種子の1つずつの散布パターンを明らかにする本研究の手法は、繁殖成功に関わる要因の解明に有効であると考えられる。