ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB2-641
*玉木一郎(名大院生命農), 石田清(弘前大農), 鈴木節子, 戸丸信弘(名大院生命農)
近親交配は近交弱勢を通して集団に進化的変化をもたらす。しかし、これらの変化はしばしば、集団を絶滅に導く。本研究では希少樹木シデコブシの分布全域から選定した10集団の交配様式と後期近交弱勢(種子から成木にかけて働く)を9つの核マイクロサテライトマーカーを用いて調べた。そして集団サイズと集団の孤立の程度が近親交配と近交弱勢を通して集団の存続に及ぼす影響を評価した。他殖率は集団間でほぼ一定の値(0.7前後)を示したが、父系相関と二親性近親交配の程度、種子世代の近交係数は集団間で異なった値を示した。この結果は他殖の程度は集団間でほぼ一定であるが、その質は異なることを示している。集団サイズと種子段階の近交係数の間に有意な負の相関が検出された。これは小さな集団では近親交配の頻度が高まることを示している。後期近交弱勢の平均値は0.736の値を示し、10集団中6集団で統計的に有意な値を示した。後期近交弱勢の値は集団間でさまざまな値を示したが、集団サイズや集団の孤立の程度との明瞭な関係は検出されなかった。ただし、対象とした集団の中で最もサイズが小さく、また分布の端に位置する一つの集団において、非常に低い後期近交弱勢の値(-0.024)が得られた。この集団では有害対立遺伝子のパージもしくは固定が生じている可能性が考えられる。しかし、現存するシデコブシ集団の多くで近交弱勢が生じていることから、分布の中心域であっても、近親交配の頻度が高いと考えられるサイズの小さな集団ではその存続に注意が必要である。