ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB2-643
*久保田渉誠,大原雅(北大・院・環境科学)
植物においては多様な性表現が分化している。その中で両性個体と雌性個体が存在する雌性両全性異株は、雌雄同株から雌雄異株に至る進化過程を明らかにする上で重要な役割を持つと考えられている。多年草オオバナノエンレイソウは種内に自家和合性(SC)と自家不和合性(SI)の集団が分化しているほか、花の性表現に関しても両性個体のみで構成される雌雄同株集団だけでなく、両性個体と雄蕊が矮小化した雄性不稔(MS)個体で構成される雌性両全性異株集団も存在することが明らかになってきた。本研究に先んじてSCの雌性両全性異株集団で交配実験と遺伝解析を行ったところ、花粉制限は無く、強い近交弱勢が検出された。それにも関らず両性個体は高い自殖率を示すため、MS個体は他殖に特化することで雌成功の面で有利になることが示唆された。また、野外調査からMS個体の出現頻度はSC集団間で多様であることも明らかになった。従って、どのSC集団でもMS個体が雌として機能するのであれば、その出現頻度は集団の他殖率・近交係数・遺伝的多様性等に影響を及ぼすと考えられる。
複数のSC・SI集団において種子と種子親の核SSR解析を行ったところ、MS個体が出現しないSC集団では他殖が検出されないのに対し、出現が確認された集団では出現頻度と他殖率に正の相関が認められた。また、種子段階、開花段階の近交係数は出現頻度の増加とともに減少し、集団中で生産される他殖種子が増えるほど、種子から開花に至る過程で排除される自殖個体の割合も増加した。さらに、遺伝的多様性は出現頻度とともに増加し、出現頻度が高いSC集団におけるヘテロ接合度の期待値はSI集団と同程度であることが示された。以上の結果から、SC集団における他殖の程度はMS個体の存在に依存し、他殖種子生産を通して集団に与える影響の大きさも出現頻度と関連することが明らかになった。