ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB2-644
*松橋彩衣子(東北大・生命),工藤洋(京大・生態研),酒井聡樹(東北大・生命)
アブラナ科植物の雄蕊は一般に、長い4本と短い2本で構成されている。その中で、タネツケバナ属の一年草ミチタネツケバナでは長い雄蕊しか持たない花が多く、短い雄蕊は気温が低いときに出現しやすくなる。この種では二月から四月に開花を行うため、花期の進行と共に気温は上昇し、集団中の短い雄蕊の出現率は減少していくことがわかっている。このように集団レベルで保持されている環境応答性は、その精度や個体間変異の程度によっては消失し形質を固定化させる場合があると考えられる。この可能性の有無を評価するには、野外集団を構成している各個体に着目し、個々の花の雄蕊がどう応答しているのか、気温応答性に個体差はあるのかについて明らかにする必要がある。
そこで、神戸市郊外の野外集団から開花前の70個体を採取し、実験圃場に移植して雄蕊数を計測した。各花の雄蕊数を開花日ごとに集計したところ、開花日が遅くなるほど短い雄蕊の出現率は低下していった。これは集団レベルでみたときの応答性と一致する。さらに、開花開始日が同じ個体間で短い雄蕊の出現率を比較した。もし、個体間の気温応答性が同程度であれば、開花開始日が同じ個体同士は似た気温変化を経験しているため、短い雄蕊の出現率が同程度になることが予想される。しかし、実際にはかなりのばらつきが生じていた。これらより、各花は気温に応答する傾向を示しているにも関わらず、その応答性の程度は個体間でかなり変異があると考えられる。このことから気温応答性が極端に小さい個体が現れることにより短い雄蕊が出現しなくなる状況も起こりうることが示唆される。