ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB2-671
*井田崇(北大地球環境), Lawrence D. Harder(カルガリー大), 工藤岳(北大地球環境)
光合成による炭素固定の減少は,植物の繁殖パフォーマンスを低下させる.資源制限下にある植物は,「当年の繁殖」と「将来の成長や繁殖のための貯蔵」の,光合成産物の分配パターンを変化させるかもしれない.さらに,他個体による被陰(競争)の効果と,食害等による葉の遺失とでは,資源分配に及ぼす影響は異なるかもしれない.本研究は,被陰と切葉による光合成の制約がOxytropis sericea(マメ科オヤマノエンドウ属)の開花・結実ステージの繁殖パフォーマンスに及ぼす影響を,13Cトレース実験により比較した.
この植物は多年生の発達した貯蔵器官を持つ.葉の被陰処理(被陰:50%光減)や切除処理(切葉: 50%切葉)により,花蜜生産は同程度減少した.一方で,種子生産は切葉により減少したが,被陰により増加した.光合成産物の繁殖への投資は,結実期(約40%)には開花期(10%弱)に比べて増加した.一方で,地下部貯蔵器官への投資は,開花・結実期ともに同程度(約15%)であった.被陰・切葉処理による炭素分配への影響は見られなかった.
被陰・切葉処理に対する花蜜生産の応答に違いがなかったことから,その時々の光合成産物量が制限要因であることを示している.繁殖や貯蔵への投資は処理によらず一定であるにも関わらず,種子生産が処理によって異なることから,当年の獲得炭素量だけが種子生産の制限要因ではないことを示唆している.本研究は,炭素分配パターンに関しては,光獲得競争と食害圧の効果が小さいことが示された.繁殖パフォーマンスは,炭素以外の養分環境(例えば窒素)の変化によって抑制されている可能性がある.