ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-332
*須藤正彬(京大・人環),西田佐知子(名大博物館),市岡孝朗(京大・人環)
森林樹木の葉面に存在するリーフドマティアや毛茸といった微細な立体構造は、葉上に成立するダニ群集の存在量を増加させることが先行研究により知られている。しかし、過去に森林で実施されたダニ相調査は一度きりの採集に基づくものであり、葉面の立体構造が森林の植物ダニ群集へ及ぼす影響を、群集の季節的な変動を考慮して評価した研究は皆無に近い。そこで本研究では、京都市近郊のコナラ二次林において2007年8月および2008年6・8・10月の計4回にわたり、林床を構成する低木15種からダニを採集し、その分類群構成および分類群ごとの個体数の季節消長を調査した。
その結果、調査地の葉上では、各樹種におけるダニ群集の分類群構成は季節を通じて著しい変化を見せないことが明らかになった。葉面に立体構造を持つ低木10種のうち、葉面にドマティアおよび高密度の星状毛を有するコバノガマズミViburnum erosum var. punctatumと、葉面に粘毛を密生するモチツツジRhododendron macrosepalumでは、ダニの総密度が他の13樹種より有意に高く、10〜200倍の値を示した。これら2樹種から発見されたダニ個体の90%以上を、いずれも菌食性と考えられているキノウエコナダニ科とコハリダニ上科に属するダニが占めていた。また植食性のフシダニ上科、および捕食性傾向の強いカブリダニ科に属する複数のダニ種について、葉面に立体構造を持つ全10樹種では他の5樹種よりも有意に高密度であった。このように京都市近郊のコナラ二次林では、葉面に発達するリーフドマティアや毛茸などの立体構造が、葉上に生息するダニ群集の量と多様性を増加させる効果を、季節を通じて持っている可能性が本研究により示唆された。