ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-336
*冨樫博幸, 鈴木孝男, 占部城太郎 (東北大・生命科学)
宮城県蔵王山系に位置する山岳湿原、芝草平には大小様々な池塘が多数点在し、それぞれの池塘はあたかも孤島であるかのような局所生物群集を形成している。これら池塘には、ユスリカ幼虫が多く見られ、その種組成や密度は池塘により大きく異なっている。ユスリカは水中に産卵し、幼虫時代を水界で過ごした後、羽化し上陸する。しかし、このような産卵による移入や羽化による分散がユスリカ幼虫の群集構造にどのような役割を果たしているのかは明らかになっていない。そこで本研究は、ユスリカ幼虫の群集構造決定における移入や分散の影響を明らかにするため、2006年6月22日〜10月19日、2007年6月7日〜7月18日の期間、芝草平の任意に選んだ8池塘に産卵・羽化トラップを設置した。トラップの回収は毎週1回の間隔で行い、併せて底泥と池塘側面のユスリカ幼虫の定量採集を行った。
ユスリカ幼虫の密度や種組成は調査した池塘によって大きく異なっていたが、それら違いは池塘の栄養状態や水質では十分に説明することが出来なかった。そこで、ユスリカ幼虫の個体数と産卵量との関係を調べたところ、両者の間にはいずれの種類でも調査期間を通じて有意な正の相関が見られた。しかし、各種の池塘間での密度の違いや季節変化と羽化率や死亡率との間には有意な相関は見られなかった。これら結果は、ユスリカ幼虫の局所群集構造は生息場所(池塘)の環境状態よりもむしろ各種の移入量(産卵量)を反映したものであることを示している。