ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-343
*丹羽慈,竹本周平,岡田浩明(農環研)
線虫は、個体数、多様性の最も大きい多細胞動物の一つである。陸域では主に土壌中に生息し、生食、腐食連鎖系の様々な栄養段階で重要な位置を占めており、有機物の分解、無機化の過程でも重要な役割を果たしている。土壌線虫の群集構造は、自然条件下で季節変動を示し、温度、水分条件、有機物資源の供給など様々な生物・非生物要因の影響が考えられている。演者らは、温度が土壌線虫群集の動態に及ぼす影響を明らかにするために、単純化した系での実験を行った。落葉広葉樹林(茨城県高萩市)および農業環境技術研究所(つくば市)と北海道農業研究センター(札幌市)の試験圃場から土壌を採取し、篩にかけ、30または80gずつ量り取ってポリエチレン製バッグに密封し、3段階の温度条件(5・10・20℃)に置いた。一定期間ごとに各温度区から3個ずつバッグを回収し、ベールマントレイ法(25℃、2日間)によって線虫を分離して、総個体数と群集構造を調べた。実験開始前の森林、農環研圃場、北農研圃場の各土壌からは、435±26、96±3、30±0.6個体/g乾土±SEの線虫が得られた。いずれの土壌でも、実験開始1ヶ月間の平均総個体数は、5・10℃区間には差がなかったが、20℃区は他の区の1.1〜1.4倍と多く、その差は多くの場合有意であった。農環研、北農研土壌では、5℃区で個体数の減少、20℃区で増加の傾向が見られ、28日目には20℃区の個体数が5℃区の1.7〜2.3倍となり、差が有意になった。森林土壌では、個体数変動に温度による違いはなかった。さらに食性群構成、科構成の分析結果を報告し、温度環境が土壌線虫群集に及ぼす影響を総合的に考察する。なお、一部のサンプルの群集構造をDNAを用いて解析した結果について竹本らが本大会で報告する。